2015年~2016年の不動産投資市場が過熱しています。
テレビのCMでも「区分所有」とか「土地がなくてもオーナーに」などのキャッチコピーを目にすることが多いのではないでしょうか?
その一方、不動産投資の危険性や銀行の不動産融資にリスクが高いというような話題も出てくるようになりました。
不動産投資と不動産融資の現状(執筆時2017年初夏)について解説します。
目次
不動産投資はバブル状態か?
2015年~2016年にかけての不動産投資市場はバブルの様相を呈しているとも言われるようになっていますが、実際にはどのような状況なのでしょうか?
2016年不動産融資がバブル期越え
2016年の銀行の不動産向け新規融資は12兆2,000億円です。
バブル時代の融資量のピークが1989年度の12兆1075億円ですので、融資量で見ればバブル期を超えたといえます。
また、不動産向け新規融資の伸び率も凄まじいものがあります。
2015年度の不動産向け新規融資の伸び率は対前年比6%増です。
2016年度はそこからさらに12%増加しています。
融資総量のみならず、ここ数年は不動産投資向け融資の新規貸し出しが毎年・年々増加しているため、不動産投資はバブル状態にあるといわれています。
不動産価格の上昇
融資量の伸びに比例して、不動産価格そのものも上昇を続けているといわれていますが、実際にはどの程度上昇しているのでしょうか?
下表はバブル時の不動産向け融資がピークであった1989年と
アベノミクス実行後の2014年からマイナス金利導入の2016年の不動産公示価格の推移を示したものです。
(単位:万円/坪)
1989年 | 2014 | 2015 | 2016 | |
宮城 | 93.26 | 25.34 | 26.41 | 27.88 |
千葉 | 129.98 | 33.94 | 34.2 | 34.51 |
東京 | 728.2 | 264.53 | 287.39 | 289.62 |
埼玉 | 113.13 | 45.19 | 45.31 | 45.65 |
神奈川 | 192.02 | 75.47 | 76.26 | 76.72 |
静岡 | 60.34 | 28.02 | 27.94 | 27.77 |
新潟 | 32.92 | 13.16 | 12.95 | 12.7 |
愛知 | 104.91 | 48.02 | 49.94 | 52.24 |
大阪 | 272.12 | 72.91 | 75.32 | 77.82 |
広島 | 92.28 | 33.73 | 33.93 | 34.64 |
愛媛 | 47.41 | 19.27 | 19.02 | 18.74 |
福岡 | 77.38 | 31.33 | 32.19 | 33.73 |
東京都の公示地価は2014年から2016年で坪当たり25万円以上値上がりしています。
千葉、神奈川、埼玉などの首都圏もこの3年間で公示地価が上昇していますし、愛知県、大阪府といった大都市の他、宮城、広島、福岡といった地方の大都市も不動産価格は上昇しています。
地方部では、慢性的に続いている不動産価格の下落に歯止めがかかっていないといえます。
確かに、不動産向け融資の影響でここ数年間は、各所で地下の下落に歯止めがかかり、不動産価格が上昇しているといえます。
銀行の融資比率に不動産投資が高い割合
銀行の不動産投資向け融資の残高も増えており、銀行融資に占める不動産向け融資の比率も上昇傾向にあります。
国内銀行の不動産向け融資残高の前年同月比伸び率は2010年6月末の△2.1%から2016年12月末には7.0%となっています。
この伸び率は地方銀行においてさらに顕著です。地方銀行の不動産向け融資の前年同月比のボトムは2011年6月末の2.1%でしたが、2016年9月末には9.9%に達しています。
企業の設備投資などの銀行本来の融資が伸びない地方都市においては不動産向け融資で融資を伸ばしているという実態があります。
実態として地方銀行こそ不動産向け融資に依存しているというのが現状です。
さらに、不動産向け貸出の総貸出残高の伸びに対する寄与度が上昇しています。
寄与度とは、融資量の伸びに対してどの程度の割合が不動産向け融資に依存しているかを示すものです。
信用金庫の不動産業向けの寄与度は、2016年12月には1.13%です。総貸出残高伸び率2.5%のうち、1.13ポイント分は不動産向け融資の伸びによってもたらされたことが分かります。
また、国内銀行の不動産業向け融資の寄与度は2016年12月末には1.00%に達しています。信用金庫の寄与度が1.13%ですので、銀行・信用金庫ともに同じように寄与度が高まっています。
さらに地方銀行は、11年6月末の0.25%から16年9月末の1.29%まで信用金庫と同水準で増加しています。
2016年9月末時点で寄与度は信用金庫を上回っています。
営業基盤が弱く収益力が弱いと言われている地方銀行と信用金庫ほど不動産向け融資への依存度が高まっていることがよくわかります。
海外マネーの流入
さらに、不動産バブルと言われている状態の一翼を担っているのが海外マネーの日本不動産市場への流入です。
下図によると、2007年、2008年と国内市場への海外マネーの不動産投資は旺盛でしたが、2008年のリーマンショックにより、投資は一気に縮小しました。
ところが、2013円年のアベノミクスによる円安誘導によって、海外マネーの国内投資は再び活性化しています。
2014年の海外マネーの投資額は2007年に迫る勢いとなっています。
REITの伸びと政府の増加目標
不動産投資を加熱させているのは、銀行融資によるアパート建設や、海外マネーの流入だけではありません。
REITと呼ばれる不動産投資信託の拡大も大きな要因です。
2001年に始まった日本版不動産投資信託J-REITは当初2銘柄で始まりましたが、2017年6月現在は71銘柄にまで増え、急速にその規模を拡大しています。
上の図でも分かるように、2012年から2013年でのREITの投資額は一気に倍以上に増え、2013年のアベノミクスによる金融緩和によって市場にあふれたマネーが確実にREITへと流れたというようなことが明らかに見て取れます。
最近は、REIT市場の伸びもひと段落したと考えられていますが、政府は現在の16兆円の市場規模を30兆円へと育成する目標を掲げています。
今までは大手銀行が資金供給してREIT市場を支えてきました。しかし、政府目標を達成させるため、新たな資金調供給先として地方銀行が注目されています。
実際に、三菱東京UFJ銀行が2017年に初めて地銀や機関投資家に融資債権を売り、大手銀行以外からも資金調達する流れが始まっています。
具体的には、三菱東京UFJ銀行は保有するREIT融資を証券化して投資家に販売する計画です。第1弾として三菱東京UFJ銀行が保有する1兆1000億円のREIT融資のうち、年間2千億円程度ずつ需要をグループ会社である三菱UFJモルガンスタンレー証券を通じて販売する予定となっています。
※平成30年4月1日より、銀行名が
「株式会社三菱UFJ銀行(英文名:MUFG Bank, Ltd.)」
に変更となりました。
この商品は債務担保証券と呼ばれ、アメリカでリーマンショック前に市場をにぎわせた証券化商品で、証券の購入者はどこにお金を貸しているかわからない、借りている人は実際に誰に借りているのかわからないというリスクの高い商品と言われています。
今回三菱東京UFJ銀行が販売する商品は貸し倒れリスクを投資家が負うというスキームになっています。そのため、債権のデフォルトリスクを購入者が負うため三菱東京UFJ銀行にとってはリスク回避の効果があります。
さらに低金利時代の今、一定の利回りを得られ、三菱東京UFJ銀行は財務改善につなげることができます。
ただし、債券の購入者は当然ながらリスクが高くなります。
この証券を地方銀行が購入すれば、収益力の弱い地方銀行が大手行のリスクを拾っている形となっています。
政府の現在16兆円のREITの市場規模を20年に30兆円まで増やすという目標と達成するためには大手行頼みの成長には限界が訪れており、地銀や年金など機関投資家といった新たな出し手を探す必要にREIT市場はさらされています。
投資家にとってマイナス金利導入によって有力な運用先が見つからない状態です。
さらにマイナス金利導入によってさらなる収益力の悪化にさらされている銀行にとっても、成長市場を見つけ積極的に融資していかなければ収益を得ることはできません。
銀王、投資家の双方にとってリスクマネーであるREITへの資金供給は有力な運用先です。
今後は政府のREIT市場への拡大目標と相まって、さらに不動産向け融資は増えていき、地方銀行はさらにリスクにさらされることになりそうです。
個人の大家ブーム
さらに、個人の不動産投資がブームとなっている側面があります。
2013年のアベノミクスからの低金利、銀行の金余りによって、ひと昔前であれば融資をしなかったサラリーマンなどにも数千万円の融資を行う金融機関が増えています。
会社員でありながら10件以上の不動産を所有している人もいるほどです。
さらに、相続税の基礎控除額が2015年から縮小されたことも相まって、土地所有者の不動産投資も拡大しています。
土地を持っている人もいない人も不動産投資によって不労所得を得ることがブームとなっているという点、縮小された相続税の非課税枠のために土地所有者が相続対策として不動産投資を行っているという点。
この2点によって不動産投資ブームとなっています。
銀行が個人向けの不動産投資向け融資を行う原因はアベノミクスによる金融緩和とマイナス金利です。
また、土地所有者が相続税対策として不動産投資を行うのも政府による税制の変更を原因としています。
つまり、昨今の不動産投資ブームは政府が政策的に誘導しているという側面もあるでしょう。
金融庁は、銀行に対して、本来の地方経済を発展させるための業務を担うようにベンチマークを導入して促しています。
しかし、銀行の金余りの状況を作っているのも政府、REIT市場のさらなる拡大を目指して、地銀からもREITが資金調達できるようにしているのも政府であることを鑑みれば、政府の行っていることはダブルスタンダートとも取れます。
なぜ不動産投資なのか
では、なぜバブル時の融資残高を超えるほど不動産向け融資が拡大しているのでしょうか?
その原因として以下の4点を挙げることができます。
歴史的な低金利政策
いうまでもなく、現在の日本は歴史的な超低金利です。
銀行の変動金利を決定するのは、銀行同士で資金を融通しあう金利である短期プライムレートという金利によって決定します。短期プライムレートは銀行が日銀から資金を調達する際の金利である政策金利という金利によって変動します。
ご存じの方も多いかと思いますが、現在の政策金利はここ10年以上ずっと0%となっています。
日銀は民間銀行が資金調達をしやすくし、市中にお金を流すことを目的として、日銀からの調達金利を0%にしています。
これによって変動金利はずっと歴史的に低い水準が継続しています。
固定金利も同様に歴史的な低金利です。
固定金利の金利は新発10年物国債の金利に合わせて変動します。
国債価格というものは価格が上昇すれば金利が低下して、価格が下落すれば金利が上昇します。
例えば100万円で1万円の利子が付く国債の金利は1万円÷100万円×100=1%です。
しかし、この国債の価格が110万円に上昇した場合はどうでしょう?
債権というものは市場価格がどうであれ、支払う利子は変わりません。
つまり110万円でも1万円の利息しか払われません。
この場合の金利は1万円÷110万円×100=0.91%となります。
国債を新規で発行する際には、この市場金利に合わせなければなりません。
仮に新発国債が市場の国債よりも低い金利であれば皆市場の国債を購入して、国は資金調達ができないためです。
国債は海外の株式市場が不安定な時には、安全資産として海外の投資家が購入します。また、今は、日銀が市中の国債の4割を保有しているという異常な状況です。
海外投資家と日銀の購入で国債市場は買い手市場で国債の価格は上昇しています。
国債に買いが多く、価格が上昇するため、長期金利は下落します。
このように、政府の政策的な事情によって、短期金利長期金利ともに下落しています。
住宅ローンに至っては、低金利競争と相まって原価割れ寸前と言われるところまで金利水準は下落しており、今までの融資スキームだけでは銀行は収益を上げることはできません。
そこで、民間銀行は収益力の高いカードローンと、潜在的に市場規模が大きいと想像できる不動産向け融資を拡大しているのです。
相続税増税による相続対策
平成27年度より、相続税の基礎控除額が縮小されました。
それまでの相続税の基礎控除額は5,000万円+(法定相続人の数×1,000万円)でした。
奥さんが1人、子供が2人の場合には5,000万円+3人×1,000万円=8,000万円までが非課税となっていました。
死亡時、8,000万円以上の財産を持つ人は少ないため、日本人の90%以上の人が相続税の課税とは無縁でした。
しかし、平成27年より、この基礎控除枠が縮小し、3,000万円+法廷相続人の数×600万円となりました。
さきほどのモデルでいえば3,000+3人×600万円=4,800万円と非課税枠が半分近くまで減少することになります。
このため、課税対象となる人が多くなり、ある程度の土地所有者は相続対策を迫られることになり、相続対策がブームのようになっています。
マイナス金利導入でさらに加速気味
2016年、日銀はマイナス金利政策を実施しました。
今までは銀行は預かった預金を融資などによって運用しなくても、日銀の当座預金に置いておくだけでも当座預金から利息を得ることができました。
しかし、日銀は融資による運用を促すために、日銀の当座預金に置いておくことでむしろ利息を取るとしたマイナス金利を一部導入しました。
これによって、銀行は嫌が応でも融資の必要性に迫られてしまいます。
預金には預金者に利息を払わなければならないという在庫保有のコストがかかります。
そのため、そのコストを吸収するために融資という形で運用せざるを得なくなってしまったのです。
とはいえ、企業の設備投資も伸びない、住宅ローンなども伸びないとあっては、新たにどこかの融資先を増やす必要があります。
それが不動産投資向けローンです。
銀行の新たな運用先として、特に、資金需要が乏しい地方部では、不動産向け融資が伸びている背景には日銀のマイナス金利による新たな融資先の開拓という理由もあります。
銀行の保全重視、短期目線の代償
銀行はバブル崩壊以降、とにかく不良債権比率を下げて自己資本比率を高めるという経営を行ってきました。
融資に応じる案件は、担保で保全ができているものか、信用保証協会の保証が得られる案件のみと言っても過言ではありません。
本来は、リスクをとって、本当に資金を必要とする部分に対して融資を行い、地域経済の発展に寄与するというのが銀行の役目です。
しかし、バブル崩壊以降、銀行は地域経済を顧みずに、自社の財務内容を健全なものに磨き上げるということばかりに注力してきました。
もしかしたら、事業再生に力を注いでいれば生き残れたはずの企業も、不良債権を嫌う銀行によって切られ、再生できないケースも少なくありませんでした。
また、創業時によって融資で資金力を強化していれば育ったはずのベンチャーも、リスクマネーを嫌う銀行によって育ってきませんでした。
海外の労働市場の発展とともに、地域経済はどんどん縮小し、最も大事な銀行の営業基盤である地域経済は発展しません。
結果として、融資先を失った銀行は短期的に収益を上げることができるカードローンや、ある意味投機マネーともいえる不動産投資のような先にしか融資先がなくなってしまいます。
また、マイナス金利導入によって、銀行は預かった預金を融資によって運用しなければ収益を上げられませんので、短期的には資金需要のあるカードローンや不動産向け融資を拡大している傾向にあります。
筆者が銀行に勤務していたのは3年ほど前で、まだまだアベノミクスが始まったばかりのころでした。
あの当時はリスクの高いアパートローンのような融資の取り扱いは基本的に行っておらず、ほとんどが、政策金融公庫の融資であったと記憶しています。
しかし、銀行時代の友人に聞くと今はアパートローンなどの不動産向け融資も増えているとのことです。
当時は忌避していた不動産向け融資の取り扱いを増やさなければ銀行も生きていくのが困難になってきたのだと感じます。
このように、地域経済を育成するという本来の役目には当然ながらリスクが付きまといます。
単純に「貸したお金が返ってこなくなるリスクを取りたくない」と考えれば担保や保証によって保全された融資だけ取り扱えばよく、不良債権化したらすぐに債権を手放せばよいのですが、それでは地域経済は育ちません。
バブル崩壊以降銀行が行ってきたことはまさにそのような銀行本位の融資で、結果的に融資先を失った銀行はカードローンや不動産向けローンというような需要のあるところにお金を貸すということだけとなり、自ら需要を作り出す余裕もなくなりつつあります。
銀行のこのような今までの取り組み姿勢も不動産向け融資が伸びた原因の一端を担っています。
■銀行のリスク
不動産向け融資が拡大すると、銀行には以下のリスクが発生します。
・不動産融資構成比が高すぎる
先ほど述べたように、現在、地方銀行と信用金庫を中心として、融資量全体の伸びに対して、不動産向け融資の寄与度が高すぎる状況です。
地方銀行や信用金庫は地域経済が衰退している地方に営業基盤があるがために、地域経済に資金需要がないところほど不動産向け融資に依存しています。
融資と投資はリスク分散という考えでは似ています。
一方がデフォルトしても、分散しておくことでデフォルトリスクを半減できるという効果があります。
しかし、不動産向け融資の構成比が高くなりすぎると、仮にデフォルトした場合に一気に銀行経営が傾く可能性があるといえます。
疲弊した地域経済を営業基盤とする地方銀行ほど、不動産向け融資の依存度が高いのですから、現在の状況は危険を孕んでいるといえます。
しかし、銀行もそのリスクをあえてとらなければいけないほど、融資先に苦慮しているのです。
・不良債権化したら
仮に不動産向け融資の返済が履行されず不良債権となったら銀行は大変です。
不良債権化してしまうと、銀行は貸しているお金の半分~全額を貸倒引当金として費用化して損失処理を行わなければなりません。
5,000万円の融資が不良債権化したら一気に2,500万円~5,000万円程度の貸倒引当金を費用化しなければならなくなります。
一般的に不動産向け融資の金利は1.5%~2.0%程度ですので、5,000万円の融資の利息収入は75万円~100万円程度ですので、リターン対してリスクが決して小さくはないことが分かります。
また、不動産向け融資の借主のほとんどが不動産経営に対しては初心者ですので、所有物件に空室が出るか出ないかは運次第という側面もあります。
会社への融資のように、当該企業の過去の財務内容や事業内容や将来性や経営者の質といったような多角的な視点での審査を行うことができません。
あくまでも担保があるという点と、入居率という視点だけです。
日本全国で不動産向け融資がデフォルトするような事態になると、当然ながら不動産価格は暴落し、頼みの担保価値もなくなり、一気に不良債権化してしまいます。
実は、銀行にとってかなりリスクの高い、運頼みの融資という側面が不動産向け融資にはあります。
■個人のリスク
不動産向け融資が拡大することによって、お金を借りている側の個人のリスクは以下の2つを考えることができます。
・不動産価格の下落
不動産の価格は変動するものです。家賃収入に陰りが見えてきたら、売却して借金を返済できると考えている人も少なくないようですが、借金以上の金額で売れる保証は全くありません。
また、銀行は定期的に担保物件の評価を行っています。担保が融資額の100%以上の場合には正常先ですが、担保割れの金額が大きいと、要注意先などに格付けが下落することもあります。
この場合、銀行はリスクマネジメントのために金利の引き上げを行ってくることもあります。
一口に「家賃収入から返済すればよい」と簡単に考えていても、たとえ正常に返済が履行できていたとしても、不動産価格が下落すれば銀行的にはリスクが高まり、結果として金利が上がってしまうという可能性があります。
銀行は、返済に問題がないと考えるのと同時に、担保によってもしもの時の融資金を回収できると考えているからこそ融資に応じています。
不動産価格が下落するということは銀行にとっては大問題なのです。
・家賃収入の減少による赤字
個人が借金をして不動産投資を行うことで最大のリスクはこの家賃収入の減少です。
大手ハウスメーカーのCMなどでは「30年家賃保証」などという謳い文句があります。「たとえ空室があっても家賃は30年間保証します。そのため、30年ローンを組んでも返済には困りませんよ。」というような意味なのですが、これに注意が必要で、実はかなり悪意のある文言で、最も重要な一文が抜けています。
○○年家賃保証というのは、確かに○○年だけはたとえ空室しかなくても家賃をメーカーが保証してくれます。
しかし、契約当時の家賃をずっと保証してくれるわけではありません。
契約当時、1部屋10万円の家賃保証を行い、合計10部屋あれば入居状況に関係なく100万円は入ってきます。
このため、たとえ毎月80万円返済のローンを組んだとしても20万円の黒字となります。
「返済の心配もないし、不労所得も入ってくる」と思ってしまいます。
しかし、家賃の価格自体は定期的に見直します。付近の家賃相場に合わせてとか、建物が古くなってきたのでという理由で、一般的には当初保証された家賃より、年次が経過するにつれて次第に保証される家賃は少なくなっていきます。
当初1部屋10万円の保証があった家賃が、1部屋6万円まで下がってしまえば、10部屋あっても60万円です。
毎月80万円の返済の場合には、この場合、毎月20万円の赤字となってしまいます。
アパート建設を計画している土地所有者はこの点には最大の注意が必要になります。
現在、人口が国内で圧倒的に密集している首都圏でも空室率は30%と言われています。
明らかに、アパート自体は供給過多の状態にあり、いつ家賃相場が暴落するかはわかりません。
これは地方にとってはなおさらですし、筆者も地方の人間ですが、田んぼの真ん中にポツンとモダンなアパートが建っていることを目にします。
ベランダ越しに見えるのは空室ばかりということもしばしばです。
ましてや、日本はこれから人口減少社会ですので、いつまでも現在の家賃相場が継続するはずはありませんし、基本的に家賃収入は下落するものと考えて不動産投資を行ったほうがよいでしょう。
■不動産バブルは弾けてしまうのか?
現在、一部では不動産バブルと言われていますが、実際には不動産バブルと言える状況なのでしょうか?
また、今後はどのようなリスクが具体的には考えられるのでしょうか?
・不動産価格そのものは異常な上昇はしていない
バブル期の不動産向け融資のピークであった1989年と、アベノミクスが始まった2014年からの3年間の地価の公示価格を比較した上の表を見てください。
確かに首都圏や大阪を中心としてここ3年間の公示地価は上昇の一途をたどっています。
しかし、バブル期の価格とはくらべものになりません。
東京都の1989年の坪単価は728万円ですが、2016年はバブル期の40%程度の289万円です。
バブル期ほどの価格になっていないことはわかります。
しかし、2014年からたったの3年間で坪あたり25万円も上昇しており、上昇率は9%以上となっています。
政府と日銀は物価上昇目標を2%と定めていますが、不動産価格だけは2%を大きく上回る推移で上昇しています。
不動産価格の上昇が物価上昇目標を支えているとも言えますが、やはり加熱気味であることは間違いないでしょう。
ただし、バブル時代不動産価格の上昇は凄まじいものがあり、近年の比ではありません。
東京都の公示地価は1986年には坪あたり約345万円でしたが、その翌年の1987年にはなんと約607万円と倍近くまで跳ね上がっています。
このような状況を鑑みると、バブル期と比べて現在の状況は安定的に上昇しているといえるでしょう。
ただし、今後、このように異常な価格の上昇が起きてしまう可能性はゼロではないということも理解が必要です。
・貸家住宅新規着工が大きく伸びている
下図は、2011年から2016年までの住宅着工件数を貸家と持ち家ごとに分けて推移を示したものです。
貸家、持ち家(戸建て、分譲含む)新規着工数の推移(単位:千戸)
2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
貸家新規着工数 | 286 | 319 | 356 | 362 | 379 | 419 |
持ち家新規着工数 | 541 | 559 | 619 | 522 | 524 | 541 |
アベノミクスが始まった2013年から急に貸家の着工件数が伸びていることが分かります。
ちなみに、2013年に持ち家の新規着工件数が飛びぬけて多い原因は消費税増税前の駆け込みでマイホーム購入者が増加したためです。
・不動産向け融資はアパート建設へ流れている
ここ数年で不動産向け融資残高はバブル期の融資量を超えましたが、不動産価格はバブル期には遠く及びません。
では、このお金がどこに流れているかと言えば、上の表を見てわかるように、貸家の着工資金であると考えることができます。
バブル期は、不動産の価格が際限なく上昇してきました。
当初1億円の融資を受けて購入した不動産が2億円に上昇したら売却し、別の人が2億円の借金をして購入し3億円になったら売却し、さらに別の人が3億円の借金をする・・・
とこのように、不動産の価格の上昇とともに銀行の融資も拡大していき、不動産向け融資は膨張していったのです。
しかし、現在は不動産の価格推移をみてもそのように不動産価格の上昇を目的とした投資ではありません。
あくまでもアパート建設という実需に基づいた資金需要であるということができます。
やはり、同じように融資量が拡大しているといっても現在の状況はバブル期とは根本的に状況が異なるといえます。
しかし、リスクがないと言えばそうではなく、バブル期とは全く別のリスクが存在しています。
・高まる空き家率
先ほどから述べているように、人口密集地域の都心部でさえ空き家率は30%を超えています。
地方ではさらに空き家率は高くなるでしょうし、今後は国全体で空き家率は高くなっていくことが予想されます。
ここに、現在の不動産ブームの最大のリスクがあると考えます。
・返済不履行リスクのほうが大きいか
今回の不動産投資ブームはバブル期のように、不動産価格の上昇そのものを目的として投機的に行われているものではなく、あくまでも家賃収入という不老所得を目的としてものと、相続税対策の一環として行われているという背景があります。
たしかに、今のところ、バブル期のような異常な価格上昇は起きておらず、緩やかに上昇しているといえる状況です。
そのため「バブルがはじける」という状況は起こりえないと考えます。
しかし、先ほどから述べているように、家賃収入を目的としているからこそ起こり得るリスクも内在しています。
家賃収入を目当てとして借金をしているため、家賃収入がなくなってしまったら返済ができなくなるのです。
実際に現在でさえ、供給過多の状態です。
こうなってしまうと、銀行にとって不良債権が増大し、銀行は不良債権処理のために膨大な損失を出すリスクがあります。
バブル期には引き当てという考えは全く重視されていませんでしたが、現在は不良債権には引き当て処理を行うというのは当然の考えです。
この点は、不良債権処理という考えが当たり前に浸透したからこそのメリットと、不良債権処理という損失を計上する可能性があるとうデメリットの双方の功罪といえます。
さらに、企業向け融資のように、事業再生というチャンスがあるわけではありません。
現在の不動産ブームに起こりうるリスクは返済ができなくなる可能性が高いという点が最も起こり得るリスクであるといえます。
・インカム目的から値上がり目的になるとはじける危険性
現在の不動産投資ブームは家賃収入という毎月のインカムを当てにしたものです。
REITも購入者は分配金を当てにしていますので、現状は値上がりを主な目的としたものではありません。
しかし、政府は現在のREITの市場規模を倍近くまで伸ばすという目標を掲げています。
現在の実需に基づいた市場規模が倍近くもあるかどうかについて筆者は疑問です。
そもそも貸家は供給過多であるためです。
現在の実需に基づいた需要から、価格上昇を目的とした需要へと切り替わった場合には、馬バブル期と同じような状況となる可能性もあるのではないでしょうか?
ましてや、日本は3年後に東京オリンピックを控えており、一部ではオリンピックまでは東京の不動産価格は下落しないという声もあるほどです。
このような状況になってしまったら、バブル期と同じ不動産価格の以上な伸びとともに信用拡大が起こり、不動産価格の下落とともに融資が一気に不良債権化するというリスクがあると考えています。
いずれにせよ、実需に基づかないものに対して投資を行うということは投資ではなく、投機という側面を免れることはできません。
銀行が投機に対して融資を行うということは、リスクが高いといえます。
■金融庁長官の交代で流れは変わるか
2016年金融庁長官が森長官に代わりました。森長官就任から金融庁は発足以降ずっと継続してきた、不良債権を抱えない銀行という銀行像から地域経済への発展に寄与すべき存在という銀行になるように、銀行への取り組みを大幅に変更しています。
・金融庁・日銀、アパートローンの監視強化
金融庁と日銀は2016年に銀行の不動産向け融資がバブル期を超えたことを受けて、銀行のアパートローンについての監視を強化しています。
担保だけを当てにした融資を行っていないか、現状の家賃収入が継続するということだけを前提にした融資を行っていないかなどの監視を強化します。
これによって、融資量を確保するために短期的な目線でアパートローンを実行していた銀行の姿勢に多少の変化が生じる可能性があります。
・本業重視のベンチマークで銀行も変わらざるを得ない
金融庁の不良債権処理が最優先という銀行の取り組みを評価するという姿勢の中において、100%の担保によって保全された不動産向け融資と、保証会社の100%の保証があるカードローンは銀行にとって誠に都合のよい融資でした。
担保や保証によって守られた融資ですので金融庁検査の際に検査官から「これは不良債権ではないのか?」と厳しく怒られる必要もありません。
しかし、森金融庁長官になってから、銀行の不良債権を徹底的にあぶりだしてきた金融検査マニュアルは実質廃止され、代わりにベンチマークというものが導入されました。
ベンチマークの主題は、銀行がリスクマネーをとって地域経済の発展や取引先企業の問題解決にどれだけ取り組んでいるのかということを評価する基準です。
今までは、どれだけその銀行に不良債権がないか、つまり銀行経営がどれだけ健全かが銀行の評価基準で、銀行の経営方針もそれに沿ったものとなっていたことを鑑みるとまさに180度の方向転換です。
今後は、銀行が担保や保証だけを頼った融資を行い、いかに銀行経営が健全であろうと金融庁は評価しないのです。
金融庁から指導を受けないように銀行がなるには、担保や保証に頼らずに積極的にリスクを取り、地域経済の発展に寄与しなければならなくなったのです。
このため、担保だけを当てにした不動産向け融資は銀行にとっては金融庁から評価を受けない融資となってしまいました。
銀行も限られた経営資源を活用するためには、不動産向け融資にばかりに力を注ぐわけにはいきません。
担保目当ての不動産向け融資の推進の熱は少しずつ冷めていくのではないでしょうか?
・金融庁の方針と収益のはざま
銀行も営利企業ですのでどうしても収益を上げなければなりません。銀行にとって預金は仕入れです。仕入れにはコストがかかり、銀行の場合には預金者への利息という仕入れコストを払っています。
特に疲弊していく地方に営業基盤を持つ地方銀行にとっては、地域から収益を上げることは容易なことではありません。
融資を行う先が個人も会社もどんどん少なくなっていくためです。
銀行が自行の健全経営ばかりを優先し、地域経済を顧みなかった代償と言えば代償なのですが。
このような状況の中で、金融庁の大幅な方向転換と日銀のマイナス金利で銀行は大変です。
担保という保全ばかりを当てにした不動産向け融資やカードローンばかりに頼った経営が評価されなくなったうえに、日銀当座預金に融資できない預金を置いておいても収益を得られないばかりか、コストまで発生することになったためです。
銀行は今後、創業や事業再生によって自らの収益基盤である地域経済を活性化させなければなりません。
しかし、それは決して一朝一夕でできることではありません。
カードローンやアパートローンを行いながら、地域経済の発展とともにそのような融資の割合を少しずつ減らしていくというのが理想です。
しかし、前述したように、地方銀行にもREITへの融資のすそ野が広がりつつあります。
地域経済の発展と収益や融資量の確保のバランスをどのようにとっていくのか。
結局それは、不動産向け融資の需要がひと段落するのか、このままバブルまで突入するのかによって大きく将来は異なるでしょう。