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2019年に発覚した住宅ローンフラット35の不正利用疑惑の内容
2019年5月に、住宅金融支援機構が取り扱う住宅ローン「フラット35」において不正利用があることが発覚しました。
フラット35は原則として居住用不動産の取得のための融資ですが、その資金使途が問題となっています。
不動産投資のために資金を流用したことが問題の焦点
住宅金融支援機構のHPには「フラット35の不適正利用懸念事案への対応について」とのページが設けられ、不適正利用の実態について以下の2点が挙げられています。
(1) 投資用物件を自己居住用と偽り、フラット35を利用
(2) 住宅購入価格を水増しした売買契約書を使って融資を申し込み、水増しされた融資額を受領
発表の段階で不適正利用の疑いがあるのは113件でしたが、2019年8月30日に調査結果が公表され、113件中105件について不適正利用があることを確認したとしています。内訳は以下の通りです。
- 融資申込み時点からの投資目的利用及び住宅購入価格の水増し:104件
- 住宅購入価格の水増し:1件
- 面談困難または面談に長期の時間を要するもの:8件
確認ができた105件の全てで「住宅購入価格の水増し」が行われており、104件で「投資目的利用」が行われていました。
年収300万円台を狙った「投資手法」
また、不適正利用者および物件の特徴として以下の要素があげられています。(パーセンテージは113件に対して)
- 20〜30歳代の単身者:84%
- 年収300〜400万円の会社員:65%
- 中古物件:100%
- 価格1,000〜2,000万円:80%
- 東京近郊のファミリータイプのマンション:82%
- 借入後に、更にリフォームローン等多額の借入をしている:89%
上記の要素からは「年収300万円台の若者が借りれる範囲でマンション投資を行った」との背景が透けて見え、公表資料でも「リスクのない不動産投資であるという勧誘」との一文があるなど、資産形成途中の会社員を対象としていたと思われます。不適正利用は、利用者と事業グループ(紹介者・売主の社員・仲介事業者等)関与のもと勧められており、利用者も不適正利用の事実については認めており、最初から投資目的であったことは明白です。また、水増しした契約書を作成し余分に借入した資金を事業グループに支払わせていたと言われています。
フラット35含む住宅ローンでの不動産投資融資は不正利用になる?】
フラット35は投資用物件の取得に使用してはいけない!
フラット35は住宅金融支援機構が取り扱う住宅ローンです。特徴としては全期間金利固定であり、保証人および保証料が不要な点です。現在は超低金利の時代であり、35年固定金利は大きな魅力があることから、フラット35の利点が際立つようになりました。フラット35および一般的な住宅ローンの資金使途は「自身および親族の居住用不動産およびセカンドハウスの建築・購入」となっています。その中に「投資用不動産」が含まれていないことから今回のフラット35を利用した投資目的の不動産購入は明らかに不正利用となります。
住宅ローンの金利が低金利である理由
賃貸用不動産の購入は本来なら事業性融資となり、住宅ローンのような条件での対応は困難です。借入における傾向として、「資金使途が限定されている商品の方が資金使途自由な商品よりも金利が低い」というものがあります。現状で住宅ローンは金利10年間固定で1.0%を切る水準ですが、フリーローンは最大で14.5%であるなど金利差は大きいのは、住宅ローンが資金使途を限定していることも大きな要因です。住宅ローンが個人向け融資で最も低金利であるのは金融機関からの豊かな国民生活の実現支援の面もあり、悪用されてはその目的が達成できないのです。
フラット35や住宅ローンで住宅購入後に転勤になったので賃貸で貸せる?
転勤は資金使途違反になる?
とは言え、大手企業に勤務される方は人事異動等により転勤する場合も珍しくないと思われます。そうなるとフラット35や住宅ローンで借入し購入した住宅に居住しなくなるケースも派生し、後付けで資金使途違反となるのではないか?との不安もあるでしょう。転勤による転居は一時的であれば資金使途違反にはなりません。また、自宅を空けたままにしておくのも防犯上不安であり、賃貸すれば賃料収入も得られると考えるのは自然なことです。
賃貸物件化としてもOK!
住宅金融支援機構のHPには「転勤等のやむを得ないご事情で、一時的に居住できない場合、融資住宅に戻ることを前提に賃貸することは可能です。」との表記があり、転勤等を理由とし、更に自宅へ戻ることを前提として賃貸を行うことを認めています。金融機関が取り扱う他の住宅ローンについては借入先の金融機関への相談をお勧めしますが、基本的にフラット35と同様の対応になると思われます。
転勤の形ならバレないんじゃないの?バレたらどうなる?
訪問による居住確認はほぼ行われていない
金融機関における住宅ローンの件数は膨大であり、その一軒一軒を定期的に監視することは実質的に不可能です。よって住宅ローンの借主が自宅に居住し続けているかどうかを、全先訪問で定期的に確認を行なっている金融機関はないと思われます。私は金融機関で20年弱勤務していますが、全先訪問確認を定期的に行なっている金融機関を聞いたことはありません。
郵便でバレる!?
ですが、住宅ローン減税を受けるための残高証明書が郵送扱いになっている場合や、その他の郵便物は不着となり金融機関に戻ってくるため、その時点で「居住に疑いあり」と認識することとなります。そうなると必ず現地へ行って確認を行いますので、転居が発覚することになるでしょう。金融機関によっては居住確認のため定期的に文書を発送しているかもしれません。
バレたら全額一括返済を求められる可能性も
金融機関に隠したまま転居し、更に賃貸行為が発覚した場合はどうなるのでしょうか。私の勤務する信用金庫の住宅ローン用金銭消費貸借証書には以下の一文があります。
「債務者は、債務者もしくは保証人の信用状態または担保の状況について重大な変化を生じた時(中略)信用金庫に対して遅滞なく報告するものとします。」
対象物件の居住用から賃貸への変化を「担保の状況についての重大な変化」と見るかは意見が分かれると思われますが、報告義務違反とみなされると考えます。そうなると、期限前の全額返済義務が発生する可能性があります。事前の相談や報告なく転居することや賃貸を行うことは極めて危険であると認識すべきです。特に報告なく転居することは「夜逃げ」と判断されても仕方のない行為であり、これまでの信用は完全に崩れます。絶対にしないようにしてください。
不正利用にならない転勤での賃貸手続きの方法と手順流れ
必ず「住所変更」の申し出を行うこと!
転勤を理由として自宅を賃貸する場合、住宅金融支援機構では金融機関の窓口での住所変更手続きを求めています。提出する変更届は非常にシンプルであり賃貸を行うことに対する記述はないことから、賃貸に関しては口頭での申し出となると思われます。私の勤務する信用金庫でも使用目的変更に関する届出書類は存在していません。ですが今回のフラット35不適正利用問題を契機に、転勤の事実及び賃貸借契約の確認など、住宅金融支援機構の確認体制は大きく強化されることと予測します。より厳格な手続きとなるでしょう。
賃貸物件化は一時的であるかどうかがポイント
賃貸としたい場合は、やはり金融機関窓口への報告・相談は必須と認識してください。その結果許可が下りれば何の問題もありません。金融機関としては住所の移転が一時的であればまず承認すると思われますが、一時的でないと判断した場合はアパートローン等の事業性資金への借り換えが必須となるでしょう。
どんな業者が不正を働くのか?怪しい会社を見抜く方法
不適正利用は「事業者グループ」による斡旋
今回のフラット35不適正利用では、紹介者(投資勧誘者)、売主の社員、不動産仲介業者、サブリース事業者等を総合して「事業者グループ」としていました。これら事業者グループが一般個人に対して「フラット35の負債を賃料で返済でき利益もあがる不動産投資がある」と勧誘したことがわかっています。そして、提示されるスキームは最初から投資用不動産の取得を目的としていながら、金融機関へは居住用住宅の取得として申請させていたようです。
虚偽申請を行わせる業者はアウト!
「申請時に資金使途を住宅取得とし、完成後に一旦住民票を移せば問題ない」との手順を提示するなど、話の中で関係者に嘘をつくよう指示する業者は避けるようにしましょう。
「大手なら安心」は大間違い!
また、大手の営業マンであれば安心とも限りません。かぼちゃの馬車を展開していた(株)スマートデイズ(破産手続開始決定)は売上高が最大で300億円以上あった「大手」でしたが、ご存知のように顧客の預金通帳の改ざん等を行い不正に融資を引き出していました。その裏には苛烈なノルマや大きなキックバックがあったのかもしれません。
契約締結を焦らせる営業マンは危険!
契約を焦る営業マンはノルマに追われている可能性が高いため、敬遠した方が良いと考えます。また、少しでも高い物件や少しでも多く借入することを進める営業マンも同様です。住宅ローンという人生を左右する多額の借金に対し慎重さを欠く言動をする営業マンは、自分の利益ことしか考えておらず「いま実績が上がれば後のことはどうでもいい」との思考である可能性があります。
業者は「不正行為ではない」と思っていた?
実は、フラット35にて取得した居住用建物で不動産投資をする手法は以前からネット等散見されていました。「金融機関へは住所変更の用紙を提出すれば賃貸物件化はOKだ」との記述を私も見たことがあります。中には著名な方もTwitterで堂々と主張しており、認められた手法と勘違いしたのは無理からぬこととも思いますが、借入時点で堂々と嘘をつかせる事を容認する意見に愕然としたことを覚えています。前述の転勤や返済困難な状況を理由とした賃貸は、当初は想定していない事態からの「苦肉の策」であり、最初から賃貸用建物の取得を目的としていれば資金使途違反です。確かに金融機関サイドが転勤等の事情の確認が甘い(できない)側面があったのは確かですが、そこにつけ込んで虚偽の報告をすることは容認されるはずがなく、悪質な行為です。確認が甘いことをいいことに、実質的にフラット35での賃貸物件取得可能との認識が広まったことは、民度の低さを現しており残念でなりません。
フラット35や住宅ローン利用での購入者側にも必要な正しい認識
金融機関は「資金使途確認」を重要視している
第一に、金融機関は資金使途が限定されたローンについては厳格な資金使途確認を行うという事を強く認識してください。第二に、金融機関は資金使途違反があった場合は一括での全額返済を求める可能性があると認識しましょう。これらは金融機関側の「低金利で融資した資金を他で使われてはたまらない」との事情もありますが、顧客保護の視点の方が強いです。
不適正利用は自分の人生を壊す可能性が高い
一個人にとって住宅ローンは巨額の借金です。住宅ローンの返済で苦しむ人は多数おり、実際に人生が壊れる人は珍しくありません。よって金融機関は購入物件に対する金額は妥当であるか(過剰支払いリスク)、請負業者は懸念ないか(未完成リスク)、返済額は問題ないか(生活破綻リスク)等を検証しています。その結果融資を行い、確実かつ事前の資金計画からブレることなく住宅を取得される事を目的としているのです。もし、その資金を他で流用した場合、住宅取得に資金が足りなくなり更なる借入を起こすことにもなります。もし追加で借入ができなければ、住宅を取得できず借金だけが残ることになります。そうなればゲームオーバーで金融機関としては徹底的に回収に走る他無くなります。金融機関を欺き資金使途違反を行なった顧客に対し同情の余地は当然に薄く、歩み寄りは期待できないでしょう。
住宅ローンは一生をかけて支払う大きな借入です。よって、顧客の計画通り確実に住宅取得がなされるように、金融機関は資金使途および資金管理にこだわるのです。