老後資金は5000万円必要?夫婦と独身おひとりさまで違いを比較
老後資金は5000万円必要? これでは足りない? 夫婦と独身おひとりさまで違いを比較
老後に不自由なく生活するうえでいくらくらいの生活費がかかるのか、老後に備えていくらの貯蓄が必要なのかが分からず、漠然とした不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
このテーマはテレビや雑誌などでもよく取り上げられていますが、老後のために必要な貯蓄は3000万円と言われたり5000万円と言われたりするので、メディアの情報を何となく見ているだけでは正解がいくらなのかがはっきりしません。
ちなみに、2019年に金融庁からレポートが出されて世間が騒然としたのは、年金だけでは老後資金が2000万円足りないという数字です。
そこで、今回はサラリーマンや公務員の方を対象に、老後にいくらくらいの生活費がかかるのかを計算し、そして生活費の不足分を準備するためにはどうすれば良いか解説します。
目次
老後の生活費はそもそもいくら必要?
老後の生活費を試算するのは決して難しいことではありません。金額がはっきりしないので計算しづらいかもしれませんが、それぞれの費目について1つ1つ架空の数字を置いて試算し、徐々により正確な数字にして精度を上げれば良いのです。以下で詳しく解説します。
老後の生活費を具体的に試算
65歳男性の独身おひとりさま世帯を想定し、老後の生活費がいくらくらいかかるか試算してみましょう。
平成28年簡易生命表によると、65歳男性の平均余命は19.55年です。仮に20年とすると、平均では85歳まで生きることになります。
老後の生活費を試算するうえではまず、以下のように毎月生じる支出を大雑把で良いので見積もってください。
食費:30,000円
日用品費:8,000円
医療費:5,000円
通信費:4,000円
交際費:20,000円
被服費:6,000円
交通費:10,000円
……
……
このように1つ1つ試算した結果、仮に月間の総額が20万円であれば、1年間では240万円となります。
次に、不定期に生じる支出を以下のように試算してください。住宅ローンの返済が残る見込みの場合はそれも忘れないようにする必要があります。また、国民健康保険や介護保険の保険料も必要です。
住宅の修繕費(70歳・75歳・80歳に1回ずつ):100万円/回
入院医療費(70歳・75歳・80歳に1回ずつ):20万円/回
旅行費用(1年に1回):10万円
国民健康保険・介護保険料(年間):15万円
葬儀・死後事務などにかかる費用:100万円
以上を合計すると、240万円×20年+(100万円×3回)+(20万円×3回)+(10万円×20年)+(15万円×20年)+100万円=5760万円となります。
このように試算してみると、独身おひとりさまであっても平均的な年齢まで生きれば5000万円以上の生活費がかかることが予想されます。
なお、備えをするときは平均で考えず、それより長生きした場合を想定することが必要です。90歳、95歳まで生きたときにどのくらい生活費がかかるのかということをあわせて考えておいてください。
夫婦と独身おひとりさまでは、生活費はどのくらい違う?
夫婦世帯であっても考え方は基本的に同じです。夫婦世帯だからと言って、独身おひとりさま世帯より生活費が多くなるとは限りません。
生活費を見積もるうえでは、女性の平均余命が男性より長い点に注意してください。65歳の女性の平均余命は24.38歳なので、男性よりも5年くらい長く生きます。生活費もその分かかります。夫が死亡したあとは人数が1人減るので、生活費は少し少なめにすれば良いでしょう。
月間の生活費が25万円(夫死亡後は20万円)で、夫・妻ともに65歳、平均余命(夫85歳、妻89歳)まで生きると仮定すると、生活費の総額は以下のようになります。
夫死亡前:25万円×12ヶ月×20年+(100万円×3回)+(20万円×2人×3回)+(10万円×2人×20年)+(15万円×20年)+100万円=7220万円
夫死亡後:20万円×12ヶ月×4年+(100万円×1回)+(20万円×1回)+(10万円×4年)+(15万円×4年)+100万円=1280万円
合計:8500万円
総額でみるとこのようにかなりの金額になりますが、老後は年金(老齢年金)を受け取ることができます。老後を迎えるまでの間に年金でまかなえない金額を貯蓄などで準備すればいいというわけです。
老後のための貯蓄は5000万円でも足りない?
老後のために必要な貯蓄は3000万円と言われたり、5000万円でも足りないと言われたりすることもありますが、個人差があるので一概には言えないというのが正解です。
例えば先述の夫婦の例で、2人が受け取る年金の金額が年間で300万円(月換算で25万円)であれば、総額で300万円×24年=7200万円となるので、1300万円ほど足りないという計算になります。
足りない分は趣味に費やすお金を減らしたり、食費を節約したりして調整すれば良いでしょう(夫の死亡後、妻は自身の老齢年金と夫の分の遺族年金を受け取ることになります)。
老齢年金の金額は60歳になるまで確定しませんが、「ねんきんネット」を利用すればある程度の金額は分かります。60歳に近づけば近づくほど正確な数値になるので随時、チェックしてみてください。
なお、以上の試算には介護費用をあえて入れていません。介護関連の費用は個人差がとても大きく、数百万円単位の高額な入居金が必要となる立派な施設に入る人もいれば、住み慣れた自宅で最後を迎えたいという人もいます。
世間は在宅介護の方向に進んでいますが、その場合は施設に入居するのと比べれば負担は抑えられるでしょう。介護費用についても一概にいくらとは言えないので、自身でどのような最後を迎えたいのかを考えて費用を見積もり、試算に加えてください。
キャッシュフロー表を作って把握しよう
以上のような試算は計算式で行うよりも、表計算ソフトを利用して年間の収支と貯蓄の推移を一覧表にした「キャッシュフロー表」を作成するのがおすすめです。キャッシュフロー表とは以下のようなものです。
キャッシュフロー表では年間の収支を見積もり、貯蓄の推移を予測します。こうすることで、老後にお金が足りなくなりそうなのかがよく分かります。キャッシュフロー表を作ったら、貯蓄の推移について以下のようなグラフを作るとさらに分かりやすくなります。
表計算ソフトを利用すれば、作成するのはそれほど難しくありません。一度作って随時、数値を見直して精度を上げれば老後資金を把握するためにこの上なく役立つツールになります。
キャッシュフロー表の作り方は日本ファイナンシャルプランナーズ協会のウェブサイトに詳しく掲載されていますので、こちらを参照しながら作成することをおすすめします。
https://www.jafp.or.jp/know/fp/sheet/
金融庁「老後の資金が2000万円不足する」の根拠は?
金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが作成した報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、高齢無職世帯(夫65歳・妻60歳)の生活費が年金だけでは2000万円ほど不足するという試算がなされ、世間で大きく話題になりました。
この試算では毎月の生活費を以下のように想定しています。
引用元;金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
実収入と実支出との差額が約5.5万円なので、年間では66万円です。これが20年続けば1320万円、30年なら1980万円なので、2000万円不足するという試算になったようです。
図をよく見ると分かるでしょうが、あくまでこれは集計したデータの平均値にすぎません。そのため、自身に置き換えれば全くかからない支出もあるはずです。
老後に不足すると考えられる金額は個人個人の条件で異なります。住宅ローンを70歳まで支払う予定の人もいるでしょう。2000万円という数字は決して的はずれなものではありませんが、少し手間をかけ、自身にとって本当に必要な金額を計算することが大事です。
「老後2000万円問題」でとりあげられるのはあくまでも老後の「生活費用」であり、介護などの状況を考慮した話にはなっていないのである。つまり、私たちはその準備を「別勘定」として準備をしておく必要がある。
https://limo.media/articles/-/14782?page=5 泉田 良輔氏
足りないお金を準備する方法・4選
老後に不足する金額の見当がついたら、次はどうやって備えるかを考える必要があります。ここでは不足を埋めるための方法について簡単に解説します。
なるべく長く働くのが基本
あなたは何歳で引退しようとお考えですか? おそらく、65歳と考えている方が多いのではないでしょうか。
収入を得るために一番、確実なのは言うまでもなく働くことです。今は65歳を超えて働いている人も珍しくありません。フルタイムでなくても良いので、できれば70歳くらいまで働くつもりでいましょう。
なお、サラリーマンは働きすぎると老齢年金の金額を減らされることがあります。60歳以降においてサラリーマン(厚生年金の被保険者)として働いている場合、65歳までは「総報酬月額相当額」と「老齢厚生年金の基本月額」の合計が28万円を超えると年金の一部が支給停止となり、65歳以降は47万円を超えると一部が支給停止となります。
支給停止となるほど働ける方であれば、老後資金の心配はそれほど要らないかもしれませんが、知識としては知っておいてください。
iDeCo
iDeCoとは「個人型確定拠出年金」のことで、国が用意した私的な年金制度です。掛け金は全額が所得控除になり、税金が安くなるという大きなメリットがあります。
ただし、iDeCoを利用して積み立てているお金は原則として60歳まで引き出しができません。これがネックになるので、無理のない範囲で利用するようにしてください。
つみたてNISA
つみたてNISA(少額投資非課税制度の1つ)は、老後の生活費を備える手段として有効です。最長で20年間、得られた利益が非課税になるので、老後資金をコツコツ準備するのに向いていると言えます。
つみたてNISAで投資が可能なのは、金融庁が厳選した投資信託のみです。販売手数料が無料で、かつ信託報酬(毎日かかるコスト)が安いものを中心にピックアップしているので、投資経験が浅い人でも取り組みやすいのがメリットです。
なお、一般NISAとつみたてNISAは併用できません。年ごとにいずれかを選択する形になるので、一般NISAにも興味がある場合はよく考えて利用しましょう。
個人年金保険
老後の資金を準備する方法として、民間の生命保険会社が販売する個人年金保険を利用する人も少なくありません。
個人年金保険は他の生命保険とは別枠で生命保険料控除の特典を受けることができるというメリットがあります。しかし、現在は低金利のため積立利率が低く設定されている商品が多く、魅力に乏しいと言わざるを得ません。
市場金利の変動にともなって積立利率が変化するタイプの商品もありますので、個人年金保険を利用したいのであれば、そうした商品を検討してみましょう。
まとめ
老後資金の準備については夫婦でも独身おひとりさまでも、その考え方に違いがあるわけではありません。
大事なことは、できるだけキャッシュフロー表を作って必要となる資金を試算し、早めに対策を打つということです。老後を迎えるまで時間があればあるほど選択肢も多くなります。
老後を迎えるまでにはまだ時間があるという方のほうが多いでしょう。さまざまな手段を検討してしっかりと準備してください。