自営業者の老後資金はいくら必要? 5000万円の不足になる? 年金対策の備え
著名なキャスターである辛坊治郎氏が某ラジオ番組に出演した際、「自営業者は老後のために5000万円以上のお金を準備する必要がある」と語ったことが話題になりました。
老後を迎えるまでに時間があるとしても、子どもの教育費や住宅ローンを払い、そのうえで5000万円も貯める必要があるなどと言われたら、途方に暮れてしまう方がいても不思議ではありません。
そこで、この記事では自営業者が老後のために5000万円もの貯蓄を準備する必要があるのか検証し、あわせて老後資金の備え方について解説します。
目次
自営業者は本当に老後資金が5000万円も不足するのか
結論から言えば、不足する老後資金の金額は5000万円を超える人もいれば、それ以下の人もいます。個人差が大きいため、必要となる金額は人それぞれとしか言えません。
老後のために準備すべき資金の金額を検証するためには、まず老後の生活費と収入を見積もることが必要です。そこで、それぞれの見積もり方について以下で解説します。
老後の生活費はどのくらい?
老後の生活費を試算するうえではまず、毎月生じる支出とそうでない支出(不定期な支出)に分けて考えてください。
毎月かかる支出の例としては、食費、通信費、交通費、交際費、日用品費などがあります。不定期な支出の例としては、住宅の修繕費、入院医療費、介護費用、車の購入費、趣味にかかる費用などです。ここは個人差が大きくなります。国民健康保険や介護保険の保険料もかかるので、忘れないようにしましょう。
仮に以下のような条件であれば、
・65歳以降を老後と定義
・仮に夫婦2人とも90歳まで生きる
・毎月かかる支出の総額は20万円
・不定期な支出の合計額は1000万円
老後の生活費総額は20万円×12ヶ月×25年+1000万円=7000万円となります。
毎月の生活費がいくらなのか、不定期な支出がいくらなのかという点については自身で費目を設定し、詳細に検討してみてください。
老後の年金収入はどのくらいになる?
原則として65歳になれば、年金(老齢年金)を受け取ることができます。
自営業者の場合、厚生年金に加入していた期間が全くなければ、老齢年金は満額で78万100円(平成31年4月~)です。夫婦2人であればこの2倍で、月額では約13万円となります。
25年間で受給できる年金の総額は78万100円×2人×25年=3900万5000円なので、不足額は単純計算で7000万円-3900万5000円=3099万5000円です。5000万円よりは少ないですね。
ただし、終の棲家として高額な入居金のかかる高齢者施設に入居することを希望すればかなりのお金がかかりますし、要介護度の高い状態になれば、自宅での介護でもそれなりの負担が生じるでしょう。
また、この試算は2人とも90歳で死亡するという前提なので、それより長生きすればより多くのお金がかかります。そのため、一口に自営業者といっても老後に不足する金額にはかなり個人差があるはずです。
「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」を利用すれば受け取れる年金の金額がおおよそ分かりますので、老後のために必要な貯蓄の試算にあたっては、随時どのくらいの年金が受け取れるのかということを調べ、なるべく精度の高い数値になるようにしてください。
なお、自営業者であっても会社員や公務員として厚生年金に加入していた期間があれば、その期間分の年金が上乗せされます。
自営業者の老後資金対策・6選
老後資金は長期的な視点でコツコツ準備するのがおすすめです。ここではどのような対策を立てるべきか解説します。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/15116
なるべく長く働くのが基本
65歳を老後と定義して老後資金を試算しましたが、65歳を超えても働いている人はたくさんいます。有名な方の例で言えば、安倍総理大臣は65歳、菅官房長官は70歳(2019年11月現在)ですが、ご活躍ですよね。
自営業者は商売にもよるでしょうが、会社員や公務員と比べればより長く働きやすいはずです。なるべく70歳くらいまでは働けるようにすることを意識し、月に数万円でもいいので収入を持続的に得られるようにするのが何よりの対策です。
国民年金基金
自営業者であれば、国民年金に上乗せして受け取れる国民年金基金に加入することができます。国民年金と同様に終身で受け取れる年金なので、死亡するまでずっと受け取ることができるのがメリットです。
国民年金とは違って物価上昇に対応できないというデメリットはありますが(物価スライドの仕組みがないため)、掛金は全額が所得控除になりますし、6万8000円を上限に1口単位で加入する口数を決めることができるので、無理のない範囲で加入を検討しましょう。
小規模企業共済
小規模企業共済は、自営業者が利用できる退職金制度です。掛金は1000円~7万円まで500円単位で設定でき、全額が所得控除になるというのが大きなメリットです。
共済金は退職時や廃業時に受け取りが可能で、一括でも分割でも受け取ることができます。共済期間が長くなればなるほど受け取れる共済金の金額も増えるので、余裕があれば国民年金基金とあわせて検討してみてください。
iDeCo
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、国が老後のための資産形成をサポートするために作った仕組みです。月額5000円から1000円単位で掛金を自由に決めることができます。
原則として60歳になるまでお金を引き出せないというデメリットはありますが、運用商品は自身で決められますし、掛金が全額所得控除になるため、普通に運用するのと比べて有利です。
なお、掛金の上限は月額6万8000円ですが、これは国民年金基金の掛金や国民年金の付加保険料との合計なので注意してください。
つみたてNISA
老後の資金を準備する手段として、つみたてNISAは向いています。なぜなら、つみたてNISAは最長で20年間、非課税のメリットを得られる長期投資を前提にした制度だからです。
また、金融庁が厳選した銘柄にしか投資できないので選択肢も自ずと限られており、投資の経験が浅くても選びやすいというメリットもあります。
金融庁の試算によれば、1995年から20年間、国内・先進国・新興国の株・債券に6分の1ずつ投資をした場合のリターンは79.9%(年平均4.0%)という結果が出ています。投資をする期間が長くなればなるほどプラスになりやすい(リターンが安定しやすい)ので、積極的に資金を増やしたいという場合はつみたてNISAも検討してみましょう。
個人年金保険
民間の生命保険会社が販売する個人年金保険も老後資金の準備に使えます。ただし、近年は低金利なので、個人年金保険に限らず貯蓄型の生命保険は全体的にメリットが少ないです。
支払った保険料のうち全部または一部を生命保険料控除として扱うことができるので、税金面でのメリットはありますが、個人年金保険の活用を考えるのは他の手段を検討したあとで良いでしょう。
まとめ
「自営業者は老後資金が5000万円不足する可能性がある」という話にはそれなりの根拠がありますが、もともと個人差が大きいので、このような話を聞いても鵜呑みにはしないようにしてください。
大事なことは、老後に必要となる金額を自身で計算して把握し、早めに必要な対策を行うということです。金額を把握していないと、日々の生活で常に「節約しなければ」というストレスを抱えることになりかねません。
老後を迎えるまでには時間があるという方のほうが多いでしょう。そのため、長期的な視点でしっかりと対策を立て、少しずつ実行しましょう。