住宅ローンの借入当初の借入期間の平均は26年程度と言われています。しかし、平均的な完済までの期間は約16年。
皆さん、10年くらいは返済期間を短縮して完済していることが分かります。
その多くの方が「繰り上げ返済(繰上げ返済)を活用して早期完済を達成した」と述べていると言われています。
住宅ローンという一生のうちで最も長い期間借りるローンですが、繰り上げ返済を活用することで、完済までの期間を短くすることが可能です。
お子様が大学生になるまでには、住宅ローンを完済したいと考えている人も少なくありません。
繰上返済はどのように行っていくべきでしょうか?
この記事では、繰り上げ返済とは何か、繰り上げ返済のコツ、繰り上げ返済と住宅ローン減税の関係性、繰り上げ返済を上手に活用するためにはどのような住宅ローンを選択すべきかなどということを説明します。
目次
住宅ローンの繰り上げ返済は得になる?
住宅ローンの繰上返済は確実に得になりますが、繰上返済を行うタイミングはどのようにすればよいのでしょうか?また、期間短縮型と返済額軽減型のどちらを選択すべきなのでしょうか?
繰上返済の効果とは
繰上返済の効果とはズバリ「借入残高をダイレクトに減少させることができる」という点にあります。
毎月一回やボーナス時になど、契約時にあらかじめ決められた金額を返済する約定返済は、1か月分ないし、半年分の利息と元金の返済分を合わせて支払っています。
しかし、繰上返済時には1か月分の利息は約定返済時に支払ってしまっているため、繰上返済時は利息が発生しません。
したがって、残高2,000万円の住宅ローンを100万円繰上返済した場合には、住宅ローン残高が1,900万円になります。
これが繰上返済の効果です。
繰上返済のメリット・デメリット
繰上返済には借入残高をダイレクトに減少させることができる効果があるとご説明しましたが、それによって多くのメリットも生じます。
また、あまりにも生活を圧迫するような繰上返済を行わない限りはデメリットはありません。よいことばかりなのが繰上返済なのです。
メリット①期間を短縮できる
約定返済額を今までと同じにしておけば、繰上返済によって返済した分は約定返済で返済しなくてもよくあるわけですから、その分借入期間を短縮させることができます。
例えば2,000万円、金利1%の住宅ローンを毎月70,000円ずつ返済していった場合の返済回数は327回ですが、100万円の繰上返済を行った場合の返済回数は309回となり、1年6か月完済までの期間を短縮できることになります。
メリット②約定返済額を減らすことができる
完済までの期間を同じとした場合には、繰上返済によって減少した分の元金を返済する必要がなくなるため、毎月の返済額を減少させることができます。
繰上返済を行う時には、この「期間短縮型」か「返済額軽減型」のいずれかの方法を選択することができます。
例えば、2,000万円、金利1%のローンを期間25年で返済した場合の毎月返済額は75,375円ですが、100万円の繰上返済を行った場合の毎月返済額は71,606円となり、4,000円近く毎月返済額を軽減させることができます。
要するに、繰上返済した分で期間を短くするのか、毎月返済額を軽減するのかを選択することができるということです。
メリット③利息の総支払額を軽減できる
利息=借入残高×金利で求めます。
繰上返済によって借入残高が減少すれば、同じ金利でも利息額が少なくなります。
住宅ローン減税期間注意は返済しないほうがよい?
詳しくは後述しますが、住宅ローンを借りると住宅ローンの利用残高に応じて所得税や住民税が控除される住宅ローン減税という税制優遇制度があります。
住宅ローンの残高が多ければ多いほど、控除額が大きくなるため、減税期間中は住宅ローン現在を行わないほうがよいのでしょうか?
結論的に言うと、減税期間中でも繰上返済を行ったほうが得になります。
控除される税額よりも繰上返済によって節約できる利息のほうが大きいためです。
繰上返済を行うタイミングはいつがいい?
繰上返済を行うタイミングはどのタイミングがよいのでしょうか?繰上返済は早ければ早いタイミングのほうが利息が得になります。
繰上返済は早いほうがいい
金利1%の住宅ローン2,000万円を期間25年で借りた場合の初年度に支払う利息額は合計で196,755円になります。
しかし、借入と同時に100万円繰上返済を行った場合の支払う利息総額は186,917円となり、繰上返済を行ったことによって、9,838円の利息の節約ができることになります。
これを借入後2年目で繰上返済を行った場合を考えてみましょう。
繰上返済を行わなかった場合の2年目(13回目)からの1年間で支払う予定の利息は189,063円となります。
2年目に入った段階で繰上返済を行った場合の1年間に払う利息の総額は179,234円ですので節約できる利息は9,829円です。
わずかですが、同じ金額の繰上返済でも、早く繰上返済を行ったほうがよいことになります。
繰上返済はまとまった金額が貯まった時に行うべきか
利息は借入残金に金利を乗じて求めます。
したがって、元金がたとえ1万円でも減少すればその分利息は低くなるわけですから、たとえ1日でも早く返済したほうが得になることになります。
1万円について金利1%で1日あたりに発生する利息は1万円×1%÷365日=27銭です。
ごくわずかのように思いますが、100日で27円ですので、早くなればなるほど、約定返済時に支払う利息は繰上返済した分だけ少なくなることになります。
繰上返済のコツは?
繰上返済には期間を短縮する方法と、毎月支払う返済額を軽減する方法がありますが、どちらのほうが得になるのでしょう?
また、固定金利の住宅ローンと変動金利の住宅ローンではどちらのほうが繰上返済によるメリットが大きくなるのでしょうか?
返済額軽減型と期間短縮型どちらが得?
返済額軽減型は繰上返済によって、少なくなった元金の分だけ毎月返済額を軽減していくという方法です。
2,000万円、金利1%、残期間25年の住宅ローンを借入期間1年後に100万円繰上返済を行った場合には、毎月返済額は75,374円から71,467円に下がります。
利息支払い額は612,200円から486,984円に減少します。
期間短縮型の場合に同条件に繰上返済した場合には借入期間が1年4か月短縮され、利息支払額は360,930円となり、返済額軽減型よりも12万円程度のメリットがあります。
このため、返済額軽減型よりも期間短縮型のほうがメリットは大きくなります。
変動金利と固定金利どちらが得?
固定金利と変動金利のどちらのほうが繰上返済のメリットが多いかどうかは、繰上返済に回すお金を運用に回した場合を考慮に入れて考える必要があります。
変動金利の場合には、金利が上昇した際には運用によって得ることができる利回りも上昇しますが、住宅ローンの金利も上昇します。逆に市場金利が下がった場合には、運用利回りも住宅ローン金利も低下します。
そのため、金利が上下してもその分運用益も住宅ローン金利も同じように動くため、損得は同じになります。
金利が上昇した場合
運用利回→上昇 住宅ローン金利→上昇
金利が低下した場合
運用利回→低下 住宅ローン金利→低下
固定金利の場合には、市場金利が上昇した場合には、繰上返済するよりも、資産運用のほうが利益を支払利息よりも利益を出せる可能性があるため、繰上返済を行うメリットはないことになります。
金利が上昇した場合
運用利回→上昇 住宅ローン金利→そのまま
金利が低下した場合
運用利回→低下 住宅ローン金利→そのまま
このように、固定金利の場合には市場金利が上昇した場合のみ、繰上返済を行うメリットがない場合があります。
今は、これ以上の金利の下落余地がないほどに金利が下落していますので上昇要因が高いと言えますので、固定金利の場合には、金利が大幅に上昇した際には、繰上返済を行うのか、そのお金で資産運用を行うのかを検討したほうがよいでしょう。
変動金利の場合には、繰上返済を行わないほうが得になるということは、よほど利回りの高い運用できる場合以外はほとんどありません。
住宅ローン減税と繰上返済
住宅ローン減税は住宅ローン残高が多ければ多いほど減税額が大きくなります。
したがって、減税期間注意は住宅ローンの繰上返済を控えたほうがよいように思いますが、減税期間中でも減税額よりも節約できる利息が多いため繰上返済をしたほうがよいでしょう。
借入残高の1%が控除される
住宅ローン減税とは、住宅ローンの年末残高の1%が所得税から税額控除される制度です。
住宅ローンの年末残高の1%が税額控除されるため、年末残高が2,000万円であれば20万円がその年の所得税から控除されます。
借入時から10年間所得税から控除される
住宅ローン現在は、最初に住宅ローンを借りてから10年間控除が行われます。
多くの場合には、10年間の利息相当額の控除を受けられることになります。
2017年10月1日に金利1%、期間25年の住宅ローン2,000万円を借りた場合の各年の除額は以下のようになります。
住宅ローン残高 | 住宅ローン控除額 | |
2017年12月31日 | 19,823,729 | ¥198,237 |
2018年12月31日 | 19,173,622 | ¥191,736 |
2019年12月31日 | 18,457,589 | ¥184,576 |
2020年12月31日 | 17,734,363 | ¥177,344 |
2021年12月31日 | 17,003,841 | ¥170,038 |
2022年12月31日 | 16,266,038 | ¥162,660 |
2023年12月31日 | 15,520,794 | ¥155,208 |
2024年12月31日 | 14,768,063 | ¥147,681 |
2025年12月31日 | 14,007,772 | ¥140,078 |
2026年12月31日 | 13,239,842 | ¥132,398 |
控除額合計 | ¥1,659,957 |
なんと、10年間で160万円以上の節税効果があります。
なんと、10年間で160万円以上の節税効果があります。
一方、同条件の当初10年間に払う金利は約230万円になります。
住宅ローン減税によって、70万円程度の負担で住宅ローンを組めることになるのです。
控除しきれない分は住民税から
住宅ローン減税は最初に所得税から控除を行いますが、住宅ローン減税分>所得税となってしまい、減税分が所得税から控除しきれなかった場合には、住民税から控除されます。
この際に、特別な手続きは必要なく、所得税から控除しきれなかった分を行政が把握し、自動的に住民税から控除が行われる仕組みとなっています。
注意点:最初の年は確定申告必要
住宅ローン減税を利用する際には、最初の年だけ税務署に行って確定申告を行う必要があります。
確定申告時に必要な書類は以下の通りです。
①確定申告書A
②住宅借入金等特別控除額の計算明細書
③住民票
④建物・土地の登記事項証明書
⑤建物・土地の不動産売買契約書(請負契約書)
⑥源泉徴収票
⑦住宅ローンの残高を証明する「残高証明書」
①②の書類は税務署や国税庁のホームページから取得できます。記入方法については税務署が教えてくれます。
また、④⑤は住宅ローン実行後に登記が完了すると、司法書士から受け取ることができます。
⑦に関しては11月~12月くらいに銀行から郵送されてきます。
これらの書類を持って税務署に行くことで①②の書類を記入することができ、確定申告を行うことができます。
なお、確定申告にはマイナンバーカードかマイナンバー通知カードがあったほうが手続きが早くなるため、持参したほうがよいでしょう。
2年目以降は年末調整でOK
初年度に確定申告を行ったあと、2年目以降は税務署から送られてくる証明書と銀行から送られてくる住宅ローン残高証明書を年末調整時に会社に提出すればOKです。
会社員の場合には毎月源泉徴収で所得税が引かれていますが、この所得税には控除分が含まれていません。
年末調整によって、住宅ローン控除を申告すれば払いすぎた税金が後から還付されてくるという仕組みになっています。
減税期間中でも繰上返済を
住宅ローン減税期間中に繰上返済を行ってしまうと、繰上返済した分だけ住宅ローン残高が減少するため、減税分は確かに少なくなります。
100万円の繰上返済を年内に行った場合には、100万円×1%=1万円の減税がなくなってしまうことになります。これが10年分ですので、10万円の減税効果が失われることになります。
しかし、100万円の繰上返済を行った場合には、100万円について、残り借入期間分にかかるすべての利息を節約できることになります。
金利1%期間20年で100万円借りた際の利息負担額は130,700円ですので、繰上返済によって節約できる利息のほうが多いことになります。
このため、たとえ住宅ローン減税中でも繰上返済を行ったほうがメリットがありますので、気にせずどんどん繰上返済を行うようにしましょう。
繰上返済手数料無料の住宅ローンを選択しよう
繰上返済はコツコツと行っていくことが最も重要ですが、そのたびに繰上返済手数料が取られてしまったら、節約できる利息よりも手数料が多いこともあります。
早期完済を目指すのであれば繰上返済手数料無料の住宅ローンを選択することが絶対条件です。
いまは、ほとんどの住宅ローンが繰上返済手数料無料となっていますが、まれに繰上返済が発生する住宅ローンもあるため注意が必要です。
地方銀行には手数料が有料の住宅ローンもある
今やメガバンクやネット銀行の住宅ローンは繰上返済手数料が無料というのが当たり前のようになっていますが、地方銀行の住宅ローンは繰上返済手数料有料という住宅ローンが多いため注意が必要です。筆者が勤務していた銀行も繰上返済手数料が発生していました。
繰上返済手数料は銀行によって大きく異なり、例えば横浜銀行住宅ローンは5,400円(固定期間中は32,400円)ですし、東京スター銀行住宅ローンは一律21,600円の手数料が発生します。
繰上返済によって、住宅ローンの早期完済を達成した人の多くが、繰上返済の原資を「節約」と答えていることから、毎月1万円とか2万円の繰上返済を行っていることになります。
このため、そのたびに数万円の手数料が取られてしまった場合には、手数料のほうが多くなってしまいます。
早期完済を目指すのであれば繰上返済手数料無料の住宅ローンを借りるようにしましょう。
期間を短縮すると保証料が戻ってくる?
完済までの期間を縮めると、縮んだ分だけ保証料が戻ってくる場合があります。
保証料を前払い一括で支払っている場合には短縮した分だけの保証料が戻ってくる場合もありますが、保証料分割の場合には、前払い分の保証料はないため、保証料は戻ってきません。
保証料一括払いの住宅ローン
保証料を前払いしている場合には、当初の借入期間分の保証料を一括で支払っていることになります。
保証料率0.1%で借入期間25年で2,000万円の住宅ローンを組んだ場合に発生する保証料は251,800円になります。
しかし、繰上返済によって当初借入期間よりも10年期間を縮めた場合には、10年分の保証料を支払いすぎていたことになります。
ちなみに同条件で期間15年で借りた場合の保証料は151,180円となります。
この場合には10万円程度保証料を払いすぎたことになりますので、ここから手数料を引いた額が完済後に還付されることになります。
保証料分割の住宅ローン
分割払いの保証料を選択した場合には、保証料率が金利に上乗せされる形になります。
金利1%の住宅ローンを保証料率0.1%で借りた場合には、毎月1.1%の利息を払っていくことになります。
この場合には前払い分はありませんので、繰上返済によって早期完済を達成したとしても保証料の還付はありません。
繰上返済シミュレーションを行う方法
繰上返済によって、どの程度の期間が縮まるのか、返済額が軽減するのかと言ったことを手で計算することは不可能です。
インターネット上にあるシミュレーションソフトを利用するか、ローン電卓を購入するしかありません。
銀行HPのシミュレーションソフトを使用
インターネットで『繰上返済 シミュレーション』と検索すると、様々なシミュレーションサイトが表示されます。
筆者がよく利用しているのは、三井住友銀行のシミュレーションソフトです。
期間短縮型と返済額軽減型の2つのパターンが簡単にシミュレーションされますのでとても便利です。
ローン電卓を使用
ローンの返済シミュレーションはとても複雑な計算式を使用しますので、通常の電卓で計算するのは不可能です。
このため、そのような計算を専門に行う電卓が売っています。
銀行員には必須アイテムで、筆者も銀行員時代にはいつも携行していました。
ローン電卓は5,000円くらいしますので、わざわざプロでもない人が購入する必要はありません。
そのような計算式を応用した、CACIOのサイトなどもありますので利用してみましょう。
また、アプリでもローン電卓が存在します。無料で取得できるものもありますので、そちらの利用もおすすめです。
筆者は銀行員時代にローン電卓が壊れたので、途中からアプリでシミュレーションを行うようにしていました。
住宅ローン繰上返済のタイミング 返済額軽減型と期間短縮型 まとめ
繰上返済は利息が発生せず、ダイレクトに元金を返済できるため、生活に無理のない範囲内で返済すればメリットしかありません。
住宅ローン減税中に繰上返済を行っても、一般的には減税分よりも金利負担の節約分のほうが大きくなるため、気にせず借入当初から行っていきましょう。
また、まとまったお金をどかっと繰上返済するよりもコツコツと返済していったほうが、返済を行うタイミングが早くなるため、その分利息の節約になります。
そのため、毎月少しでも繰上返済を行うことができるよう、繰上返済手数料無料の住宅ローンを選択することが早期完済には必須です。
また、自宅から気軽に返済できたほうがコツコツと返済することができるため、インターネットバンキングから返済できる住宅ローンを選ぶという点もポイントです。
住宅ローンの返済期日を縮めると保証料も戻ってくることもあり、まさに良いことずくめです。
とにかくコツコツと繰上返済を行い、ぜひとも早期完済を達成してください。